感染症が原因のがんは、実はその多くが予防可能であることが分かっています。
特に注目されているのは、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ピロリ菌、そして肝炎ウイルス(HBV・HCV)です。これらの感染症に対しては、ワクチン接種や除菌治療、定期的な検査によってがんの発症リスクを大幅に減らすことができます。
まずHPVですが、このウイルスは子宮頸がんをはじめ、肛門がんや咽頭がんなど、さまざまながんの原因となります。
広範な国際研究では、HPVワクチンの接種により感染リスクが90%以上減り、ワクチン導入後の若年女性では子宮頸がんの発症率が著しく低下していることが確認されています1)。また、検診を併用することでさらに高い予防効果が得られるとされています。
次にピロリ菌ですが、これは日本人の胃がんの最大の原因とも言われています。
ピロリ菌は慢性的に胃の粘膜に炎症を起こし、それが長期的にがん化へと進む可能性があります。世界中のランダム化比較試験を統合した研究では、
ピロリ菌を除菌することで胃がんの発症リスクが約46%、死亡リスクが約39%低下することが明らかにされています2)。日本では特に40代以上で感染者が多く、検査と除菌は極めて重要です。
さらに見逃せないのが肝炎ウイルスです。
B型(HBV)およびC型(HCV)の肝炎ウイルスは、慢性肝炎や肝硬変を引き起こし、そこから肝臓がんに進行するケースが多く見られます。特にC型肝炎は治療によってウイルスを完全に排除できる時代になっており、がんの発症リスクを大きく下げられます。実際に、肝炎ウイルスを早期に検出し、抗ウイルス治療を行った人では、肝臓がんの発症率が大幅に減少することが報告されています3)。B型肝炎についてもワクチン接種により感染を未然に防ぐことが可能です。
まとめると、感染性がんの予防には次の3本柱が極めて有効です:
・まずは子供に子宮頸がんワクチンの接種を積極的に考慮してください。
・ご自身がピロリ菌に感染しているか検診ないし医療機関で確認してください。
・B型肝炎C型肝炎ウイルスの感染しているかどうかも同様に医療機関 検診などで確認してください
これらはどれも私たちが日常の中で選択し、行動できるものです。「感染を知る・防ぐ」という一歩が、がんを防ぐ最大の力になるのです。
引用文献
1) Garland SM, Kjaer SK, Muñoz N, et al. Impact and effectiveness of the quadrivalent human papillomavirus vaccine: a systematic review of 10 years of real-world experience. Clin Infect Dis. 2016;63(4):519–527. https://doi.org/10.1093/cid/ciw354
2) Ford AC, Yuan Y, Forman D, et al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMJ. 2020;348:g3174. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32205420/
3) Polaris Observatory Collaborators. Global prevalence, treatment, and prevention of hepatitis B and C virus infections: a global modeling study. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2018;3(6):383–403. https://doi.org/10.1016/S2468-1253(18)30056-6