
がん治療を終えた後も、再発を防ぐ手段として注目されているのが「運動」です。
近年の高いエビデンスに支えられた研究によると、定期的な運動は再発リスクを大きく減らす可能性があることが示されています。
まず、2025年に発表された国際共同の臨床試験では、手術や化学療法を終えた大腸がん患者889名を、構造化された運動プログラム(週150分程度の中強度有酸素運動+サポート付き)群と、一般的な健康教育のみを受けた群に分けて3年間追跡しました。
その結果、運動群は非運動群に比べ、再発あるいは新たながんの発症リスクが約28%低く、死亡リスクも37%減少しました1)。これは薬による補助化学療法と同等、一部ではそれ以上の効果とされ、「運動が治療の一助になる可能性」が高く評価されています1)2)。
さらに、2025年の欧州から発表された※メタアナリシスでは、乳がん・大腸がん・前立腺がんなど複数のがん患者を対象に、治療後の運動習慣が死亡率や再発リスクを有意に下げることが確認されました。とくに乳がんでは、運動を行うことでがん関連の死亡率が約30%低下したという報告もあります3)。
では、なぜ運動が再発予防に効くのでしょうか?その背景には、炎症を抑えたり、インスリンなどのホルモン調整、免疫機能向上といった全身への作用が関係しています。さらに、大腸がんの一部では、血液中を流れるがんの元となる細胞(循環腫瘍細胞)が、運動によって減るという生理的な変化も見られたとされています3)。
再発予防には、「特別な運動」ではなく、週150分程度のウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどの継続が効果的です。重要なのは、長く続けられる習慣として取り入れること。実際に試験でも、トレーナーのサポートを受けながら継続した人ほど成果が出ています1)。
がん治療を終え、「もう安心」と思ったその後こそ、再発防止に向けた一歩が大切です。運動は副作用が少なく、コストも低く、心身に優しい方法です。
治療後も歩く、階段を使う、まずは週に数回の30分ほどの有酸素運動から始めてみてはいかがでしょうか。
「ただし手術後間もない時期や化学療法中の全身倦怠感や食欲不振が強い時期は無理せずに体調が回復してから運動を初めてください。くれぐれも体調がすぐれない時期にはゆっくり休養をとることも治療の一環として大切です。」
引用文献
1)Brown JC, et al. Structured exercise after adjuvant chemotherapy for colon cancer: a randomized phase 3 trial. N Engl J Med. 2025; DOI:10.1056/NEJMoa2502760. URL: https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2502760
2)O’Leary K. Exercise reduces the risk of colon cancer recurrence. Nat Med. 2025; URL: https://www.nature.com/articles/d41591-025-00038-4
3)Győrffy B, et al. Exercise and survival benefit in cancer patients: evidence from a comprehensive meta-analysis of 151 cohorts (∼1.5 million patients). GeroScience (Springer). 2025; DOI:10.1007/s11357-025-01647-0. URL: https://doi.org/10.1007/s11357-025-01647-0
※メタアナリシス
一つのテーマに対して行われた複数の研究のデータを集めて、全体として本当に効果があるのか”をはっきりさせる研究手法。信憑性が最上位クラスの研究手法とされている。。