
健康で長生きしたいと願うのは、誰にとっても共通の思いではないでしょうか。そのカギを握るのが、実は「毎日の運動習慣」なのです。
私が日々の診療でよく受ける質問の一つに「健康寿命を延ばすにはどうしたらよいか?」というものがあります。その際、私はこうアドバイスしています。「膝の痛みや息切れなどがなければ、まずは1日30分を目標に歩いてみてください。健康寿命を延ばすには、これ以上の手段はないと思います」と。
運動が健康に与える影響については、世界中の研究で繰り返し証明されています。
たとえば、ハーバード大学による大規模な疫学研究では、1日15分以上の軽い運動で死亡リスクが14%も低下すると報告されています1)。
これは、週に90分程度の散歩や軽いジョギングでも十分な効果があるということです。運動によって心臓や血管の機能が改善され、がんや糖尿病などの生活習慣病の予防にもつながります。
反対に、長時間座り続けることは早死にのリスクを高めることが分かっています。座る時間が長いほど死亡リスクが上がる傾向にあります。しかし、デスクワークが長い人でも定期的に体を動かすことでこのリスクは大幅に低減されます2)。
さらに運動は、脳の健康やメンタル面にも良い影響を与えます。有酸素運動を週に数回行っている高齢者では、記憶を司る「海馬」の体積が維持または増加するという研究があります3)。
これは、運動習慣によって加齢により萎縮しやすい海馬を保護することで、認知症の発症リスクを下げたり、記憶力の低下を防ぐ効果が期待できるということです。
また、軽い運動でも、気分を安定させるセロトニンやドーパミンなどの脳内ホルモンの分泌が活性化されることが分かっています。これによりストレスが軽減され、うつ症状の緩和にもつながります。
実際、軽度のうつ状態に対しては、運動が薬物療法と同等の効果を持つことが報告されています。うつ状態でなくとも、軽い運動で気分が明るくなることは日常でも実感できるはずです。
大切なのは、無理な運動ではなく、「自分に合ったペース」で「毎日少しずつ」続けることです。それこそが、健康と長寿への最短ルートなのです。
今日から、まずは1日15分の散歩から始めてみませんか?
参考文献
1)Wen CP, et al. Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study. Lancet. 2011;378(9798):1244–53.
URL: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(11)60749-6
2)Ekelund U, et al. Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women. Lancet. 2016;388(10051):1302–10.
URL: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(16)30370-1
3)Laurin D, et al. Physical activity and risk of cognitive impairment and dementia in elderly persons. Arch Neurol. 2001;58(3):498–504.
URL: https://doi.org/10.1001/archneur.58.3.498