加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)を日常的に食べることで、がんのリスクが高まるというリスクの背後には、いくつかの科学的に確認されたメカニズムがあります。
まず一つ目は、発がん性物質の生成です。加工肉には、保存のために「亜硝酸塩」や「硝酸塩」といった添加物が使われています。これらの成分は、私たちの体の中で消化される過程で、「ニトロソ化合物(NOCs)」というがんを引き起こす可能性のある化学物質に変化します1)。NOCsは細胞のDNAを傷つけて、がんの原因となる遺伝子変異を引き起こすと考えられています。
次に挙げられるのが、調理法に関係する有害物質の発生です。
ベーコンやソーセージを焼いたり炒めたりすると、特に焦げ目がついた部分には「ヘテロサイクリックアミン(HCA)」や「多環芳香族炭化水素(PAHs)」といった物質が発生します2)。これらもまた、がんを引き起こすリスクがあるとされ、DNAへのダメージを与えることが知られています。
さらに、最近の研究では、腸内細菌と加工肉の関係にも注目が集まっています。
加工肉を摂ることで腸内環境が乱れ、炎症を引き起こしやすくなることで、がんができやすい状態をつくってしまう可能性も指摘されています3)。
つまり、加工肉には、「添加物 → 体内での発がん物質生成」、「高温調理 → 焦げによる化学物質」、「腸内環境の変化」といった複数の経路でがんのリスクを高める仕組みがあるのです。
こうした理由から、世界保健機関(WHO)の関連機関である「国際がん研究機関(IARC)」も、加工肉を**グループ1(ヒトに対して発がん性がある)**に分類しています。
毎日の食事ですぐにがんになるわけではありませんが、「頻度」や「量」、そして調理方法」に気をつけることが、将来の健康を守る大切な習慣につながります。
引用文献
1)International Agency for Research on Cancer. IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat. IARC; 2015 Oct 26. Available from: https://www.iarc.who.int/wp-content/uploads/2018/07/pr240_E.pdf
2)Hendel MN, Gíslason T, et al. Processed Meat Consumption and the Risk of Cancer. Environmental and Molecular Mutagenesis. 2021. PMID: PMC8537381. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8537381/
3)O’Keefe SJ. Diet, microorganisms and their metabolites, and colon cancer. Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology. 2016;13(12):691–706. doi:10.1038/nrgastro.2016.165. Available from: https://www.nature.com/articles/nrgastro.2016.165